現在のAGA治療はフィナステリドやミノキシジルによる進行遅延と発毛促進そして自毛植毛という外科的処置が主流ですが科学者たちはその先にある究極の治療法すなわち「毛包の完全な再生」を目指して研究を続けています。AGAのメカニズム研究において近年最も注目されているのが「毛包幹細胞」の存在です。毛包の中にはバルジ領域と呼ばれる部分がありここに色素幹細胞と毛包幹細胞が存在しています。通常ヘアサイクルにおいて髪が抜けた後次の髪を作るための指令を出し細胞を供給するのはこの幹細胞の役割です。かつてはAGAになると毛母細胞が死滅してしまうと考えられていましたが最新の研究により実はAGAでミニチュア化した毛包においてもこの毛包幹細胞自体は死滅せずに残っていることが明らかになりました。ただ幹細胞から「髪を作れ」という指令を出す機能や前駆細胞へと分化する機能が何らかの原因で休止してしまっているあるいは阻害されているだけなのです。これは非常に大きな発見です。なぜなら幹細胞が残っているということは適切な刺激や環境を与えれば再び太い髪を作り出す工場として再稼働できる可能性があるからです。現在世界中で進められている毛髪再生医療の研究には大きく分けて二つのアプローチがあります。一つは残っている幹細胞を活性化させる薬剤や因子の開発です。もう一つは自分の細胞を採取して培養し数を増やしてから頭皮に戻す「毛髪培養細胞治療」です。後者のアプローチでは自身の毛球部毛根鞘細胞などを採取・培養して移植することで新たな毛包形成を誘導しようという試みが臨床試験の段階まで進んでいます。さらにiPS細胞を用いて毛包の元となる細胞を作り出しそれを頭皮に移植して完全に新しい髪を生やすというSFのような研究も着実に進展しています。もしこれが実用化されれば後頭部の髪の数に制限される自毛植毛の限界を超え理論上は無限に髪を増やすことが可能になります。またAGAのメカニズムにおける未解明な部分例えばなぜDHTが特定の部位でのみ脱毛を引き起こすのかその詳細な分子メカニズムがさらに解明されればホルモンバランスに影響を与えずに局所的に作用する副作用のない新薬の開発にも繋がるでしょう。科学の進歩は日進月歩であり今日「不治」や「不可逆」と思われている現象も明日には「治療可能」なものに変わるかもしれません。AGA治療の未来は単なる維持や遅延ではなく失われた器官の完全再生へと向かって確実に歩みを進めているのです。