私たちの皮膚には腸内フローラと同じように無数の細菌や真菌が生息しておりこれを皮膚常在菌叢(スキン・マイクロバイオーム)と呼びますが頭皮においてこのバランスが崩れることが薄毛の進行に深く関わっていることが最新の研究で明らかになっています。特に注目すべきは「マラセチア」という真菌の存在です。マラセチアは皮脂を好む酵母様真菌であり健康な頭皮にも存在しているごくありふれた住人ですがAGAを発症して皮脂分泌が増加すると事態は一変します。豊富な餌を得たマラセチアは爆発的に増殖し皮脂に含まれるトリグリセリドを分解して遊離脂肪酸を排出します。この遊離脂肪酸は皮膚にとって刺激物質となり表皮のバリア機能を破壊し炎症を引き起こします。これが脂漏性皮膚炎のメカニズムですが問題はここからです。炎症が起きると私たちの体は防御反応として免疫システムを発動させますがその過程で大量の活性酸素が発生します。この活性酸素は「酸化ストレス」として毛包周囲の細胞を攻撃し毛母細胞のDNAにダメージを与えたりミトコンドリアの機能を低下させたりします。さらに炎症部位からはTGF-βなどの脱毛シグナルとなるサイトカインが放出されこれがAGAによるヘアサイクルの短縮をさらに加速させてしまうのです。つまり「皮脂過剰→マラセチア増殖→炎症→酸化ストレス→脱毛シグナル増幅」という一連の生物学的なドミノ倒しが頭皮上で起きているわけです。またフケが毛穴を塞ぐことで嫌気性菌であるアクネ菌などが増殖し毛包炎(ニキビのようなもの)を引き起こすこともありこれも局所的な脱毛の原因となります。したがって科学的な視点に基づいた薄毛対策とは単に髪を生やす薬を使うだけでなくこのマイクロバイオームのバランスを正常に保つことすなわち「菌との共生関係を修復すること」が重要な柱となります。抗真菌薬の使用や適切な洗髪による皮脂コントロール抗酸化作用のあるビタミンCやEの摂取そしてストレス管理による免疫機能の維持など多角的なアプローチが必要です。最近ではプロバイオティクスのように頭皮の善玉菌を育てるという概念のヘアケア製品も登場しており菌バランスを整えることが次世代のAGAケアのスタンダードになる日も近いかもしれません。目に見えない微細な菌たちの世界の均衡を保つことが目に見える髪の健康を守るための鍵を握っているという事実は生命の不思議さと奥深さを教えてくれます。
頭皮の常在菌バランスと薄毛進行の科学的メカニズム