夜勤と受験勉強で彼らの髪に起きた異変
同じ睡眠不足という状況でも、その背景や年齢によって、髪に現れるサインは異なります。ここに、異なる生活を送る二人の人物がいます。一人は、総合病院で働く29歳の看護師、美咲さん。もう一人は、大学合格を目指す18歳の高校生、健太くんです。彼らの事例は、睡眠リズムの乱れがいかに髪に影響を及ぼすかを浮き彫りにします。美咲さんは、日勤と夜勤を繰り返す不規則な勤務形態です。夜勤明けは疲労困憊で眠ろうとしても、体内時計が狂っているためかなかなか寝付けず、眠りも浅い状態が続いていました。彼女が悩み始めたのは、髪をとかした時にブラシにつく抜け毛の量が増え、特に頭頂部の分け目が以前より目立つようになったことです。髪全体が細くなり、ハリやコシが失われたように感じていました。これは、ホルモンバランスの乱れや慢性的な血行不良が原因で起こる「びまん性脱毛症」の典型的な初期症状と考えられます。一方、健太くんは、志望校合格のために毎日深夜まで机に向かい、睡眠時間は4時間程度。模試の成績に一喜一憂し、常に強いプレッシャーに晒されていました。ある日、母親から「頭に丸いハゲができているよ」と指摘され、鏡を見て愕然とします。後頭部に、10円玉ほどの大きさの脱毛箇所ができていたのです。これは、極度のストレスや疲労が引き金となり、自己免疫機能が異常をきたして毛根を攻撃してしまう「円形脱毛症」です。美咲さんと健太くん、二人の置かれた状況は異なりますが、その根底には「質の悪い睡眠」と「過度なストレス」という共通点があります。髪は、体が発する危険信号を最も分かりやすく示してくれる部位の一つです。彼らの髪に起きた異変は、これ以上無理を続けてはいけないという、体からの切実なメッセージだったのです。